應典院でささやかな展示会が開催されている。「震災からの定点観測展」。阪神淡路大震災の被災地のスポットのいくつかを、定点観測撮影したパネル展だ。
感動したのは、元の写真を撮った人がごくふつうの高齢者だということ。当時72歳の大仁節子さんは、被災後自宅を失うが、「なつかしい家や町並みを、せめて写真で残そう」と95年、97年、2000年と定点撮影に出かける。自宅の会った東灘区一帯、さらに神戸を代表する三宮センター街、神戸国際会館、生田神社など、かつて愛でたであろう光景を撮影していく。
大仁さんは2010年に亡くなっているのだが、彼女の遺志は大学生によって引き継がれ、定点観測は続いている。それが2013年の新作。その世代を超えた協働作業に、訳もなく感銘した。
大学生はすでに彼らは震災を知らない世代といっていい。もちろん生前の大仁さんと面識もない。ただ故人と同じ道を辿り、同じ地点から、復興した場所や建築物に焦点を合わせたのである。撮影は真夏、学生たちは汗だくになって市内を歩いたらしい。
ある男子学生のコメント。
「大仁さんが撮った写真の構図や画角に合わせて撮影しようとみんなで工夫しているうちに、大仁さんはどの場所から、どんな体勢で写真を撮ったのか、身長はどのくらいかなどを考えるようになり、『これって大仁さんがやったことを引き継いでるんやな』と漠然と思うようになりました」
20年という時間を超えて、震災を追体験する。写真という記録が、時間と作業を経ることで、記憶として刻印されていく。その重層的な行為の重なりは、生き死にを超える物語として蘇生するといってもいい。
企画した主幹の山口が、本職の大学教員の立場でこう書いている。
「定点観測された記録を観ることは、ある日のある場所について呼び覚まされた個人の記憶が、他者の経験と重ね合わせつつ、『あれは、(私にとって/私たちにとって)何だったのか』という問いに向き合わざるを得なくなることでしょう」
展示は25日まで。10時~19時まで。21日14時から定点観測したメンバーによるワークショップがある。詳細は以下。