唱歌と日本人の自然観。「うつろう」というスタイル。

(2020年07月27日 更新)

「うさぎおいし かのやま こぶな つりし かのかわ」(「ふるさと」)と唱歌の中に描かれる野山の情景を、今や実体験として思い浮かべることのできる世代も少なくなりました。唱歌や叙情歌というと、私くらいの昭和世代にはまだなつかしさもありますが、若い世代にはあまり耳馴染みがないのではないでしょうか。

しかし、こういった唱歌・叙情歌が日本人の自然観、生命観に大きな影響を与えていることを軽んずることはできません。先ごろ農研機構の研究チームが、興味深いデータを発表していました。

それによると、有名な唱歌や童謡(1万3千曲調査)の歌詞には、海、川、森、農地といった日本の主な生態系や、生き物、植物などが豊かに含まれており、日本人の自然観に大きな影響を与えてきたと指摘しています(朝日新聞6月16日夕刊)。

しかし、AI時代の今、唱歌の中の自然もやがて忘れ去られるのではないかと思いきや、どっこい今も学校園で根強く歌い継がれています。私の幼稚園でも、「夏も近づく八十八夜 野にも山にも若葉が茂る」(年中)、「春の小川はさらさらいくよ エビやメダカやこぶなのむれに」(年長)と、そんな光景など見たこともないはずの幼児が楽しそうに歌っている。その歌声は、消え去りし自然を歌の中に再生しているとも言えます。

評論家の松岡正剛は、「日本文化の正体は必ずや『変化するもの』にある」と述べています。文芸にせよ音楽にせよ住居・暮らしにせよ、不動の絶対があるのではなく、「あはれ」「うつろう」のが日本のスタイルであると。そうだとしたら唱歌の中の自然もまた、かたちを変えて受け継がれていくのではないでしょうか。