■人類の悪夢
ドイツの幼児教育学会に参加した復路、有名なアウシュビッツ=ビルケナウ強制収容所を訪れました。ナチスドイツが行ったユダヤ人のホロコースト(大量虐殺)で知られ、ここで150万人以上の人命が奪われました。「アンネの日記」のアンネ・フランクもその一人です。
ナチズムの悪の象徴として、映画や映像で幾度となく刷り込まれてきた場所ですが、実際に立ったリアルな実感はイメージを圧倒しました。所内は綺麗に整備されているのですが、展示された遺品の数々(押収されたメガネ、靴、カバン、そして女性の髪など)や、また大量に殺害したガス室や遺体の焼却炉など、慄然としました。
中でも一番衝撃だったのは、東京ドームの35倍もあるとされる収容所のあまりの広さと静けさでした。緑多き片田舎の、のどかささえ感じるこの場所で、現実に起きた悪夢の落差に戸惑うばかりでした。
■若者たちへ何を語り継ぐか
虐殺は当初は銃殺か絞首刑だったが、あまりの数の多さに、一度に大量に殺戮できるガス室が採用されたと読みました。所長のルドルフ・ヘスは至って官僚的で、能吏であることを自負しました。命じられたことを、正確にこなす。そういう「実直さ」に震えを感じます。いったい人間はどこまで非道になれるのか。
平日の遅い午後に訪問したのですが、所内は世界中の見学団でいっぱいでした。10代、20代の若者たちをたくさん見かけました。聞けばドイツの学生は必ず収容所見学が義務付けられているとか。若いうちにこうした歴史の現実に触れる意義を感じます。
かつてメルケル首相はこう演説しました。
「ナチスがこの収容所で犠牲者に与えた底知れない恐怖を、我々は犠牲者のため、我々のため、そして将来の世代のために、決して忘れない」
これはドイツだけのことではない。そう感じました。