日本の子どもたちの自己肯定感の低さは、仏教の影響を受けているから、と聞いたら、驚くのではないか。いや、否定的な見解ではない。だから修行のごとく、失敗しても子どもたちは一層がんばるというのだ。
ちくま新書の「日本の教育はダメじゃない」は、台湾大学で教えている日本人准教授と京都大学で教えている英国人准教授の共著。二人とも、世界銀行や国連で働く国際派だ。
この本の面白さは、多くの日本人が思い込む「日本の教育はダメだ」観を国際比較データで問い直していること。勉強に興味がない、知識がない、学力格差は大きい、いじめ・不登校の多発等々、一つ一つそのバイアスをデータを駆使して覆していく。日本の教育のレベルの高さや、現場の教師たちのがんばりをきちんと評価している(国際的にも高い評価がある)。
とりわけ興味深かったのは、冒頭に挙げた自己肯定感の問題だ。そもそも東アジア諸国では一般に欧米の子どもに比べ、自信のある子どもの割合は低く、その一方学力は高い傾向にある。それは、過剰な自信に溺れるのではなく、自己に対し批判的な目を向け続け、(自信を持てないからこそ)一層頑張ることと関連はないかと、いうのだ。
その基底にあるのが、キリスト教と仏教の違いがあるという。欧米人は、自己は固定的なものであり、「生来の能力」によって規定されると解釈する。つまり、失敗したらそこまでよと、がんばらないのだが、その根底にはキリスト教の「予定説」が強く影響しているのであって、そこが「人生は修行」と考える日本人の仏教観と大きく異なる。失敗をも成長の機会と考える自己の捉え方の違いだと指摘する。
文中での仏教への言及は少ないので(河合隼雄が紹介されているが)、完全に理解はできないのだが、日本人の教育観や学習観、成長観に仏教が根底的な影響を与えているのだとしたら納得できる。別の章で「学びに必要な強制力」というくだりがあるが、重ねてみると面白い。
むろん、「そこがすごいよ日本人」みたいなお調子本とは違う(それでもやはり「国家主義的」という業界内の批判は受けるそうだ)。安易な現状批判でも肯定でもなく、データで正しく実態を認識した上で、日本の教育についての議論を始めようと呼びかける。
それにしても、優秀な人材(日本人の大人の学力は世界一だ)を使えない経済界が、不調の理由を教育界に求め、政治がそれに追従するというパターンは、教育現場を混乱させ、ますます教員たちを疲弊させていくだけではないか。(写真はパドマ幼稚園の年中児クラス)
「日本の教育はダメじゃない 国際比較データで問いなおす」 (ちくま新書)https://honto.jp/netstore/pd-book_30760764.html