恩送り。大切なものを未来へリレーする

(2021年09月21日 更新)

お彼岸というと、ご先祖のご供養やお墓まいりと決まっていますが、私はこの日を、「恩送りの日」としてご提案をしたいと思います。

「恩返し」と「恩送り」は似て非なるものです。「恩返し」は、私からあなたへ対し返礼的な、お互い様といったところがありますが、「恩送り」は返すべき恩を、あなたではなく、見知らぬ誰かへ、未来の誰かへと送っていくことを言います。

例えば、10年前の東日本大震災でも、当時の小学生が瓦礫の中から救い出してくれた消防士への恩を、成人してから地元の消防団員となって「恩送り」しているといった体験談があります。

いや、そんな劇的なものでなくても、誰にもそういう「恩送り」が可能ではないでしょうか。恩をいただいたのは親様、そして送るは次世代の子どもたちにであり、あるいは地域社会へ、です。

私ごとで恐縮ですが、私は人前で話をしたり、何かの原稿を書いたりそういうことが苦にはなりませんが、そういう性分というか、人柄を頂いたのは、間違いなく先代である父親からです。

昭和一桁生まれの父親は、戦時中に10代を過ごし、それから貪るように本を読みました。よく家でガリ版をきって、幼稚園で配る園だよりを書いていたことも覚えています。私には惜しみなく本を買い与えてくれました。昭和30年代はまだ貸本屋の時代です。父は「本は自分で買って、自分のものにする」といって、「世界少年少女文学全集」「少年探偵団」など私がおねだりすれば必ず買ってきてくれました。私は道端で歩きながら本読むほど読書好きな子どもになりました。

今この歳になって思うのですが、私の一番の基本になっているには父親が育ててくれたこの性分のようなものです。もちろん大人になってからも、仕事を教えてもらったり、人を紹介してもらったり、多くの恩恵もいただいてきましたが、私がもっとご恩に感じるのは、それ以前に、私という人柄を育ててくれた親の真心です。

われわれは、人間としての基本を誰からいただいたのか。あなたの人柄、優しさ、思いやり、明るさや正しさ、その人としての基本をどなたからいただいたのでしょうか。若い頃は反発や抵抗もあったかもしれない。しかしそれも含めてご両親の親心は、最大のご恩であることは違いありません。

恩という字は、心の原因、つながりを表します。父母から与えられたご恩を、今度はわが子に、家族へと「恩送り」していく。あるいはお世話になった地域社会、故郷に貢献することも立派な「恩送り」です。

自分が若い頃そのようにしてもらったことを、身近な人にも送っていく。その姿を見ている若い世代がそれを模範としていつかまた「恩送り」を受け継いでくれる。「恩送り」のリレーが起きていけば、家族も社会ももっとよくなっていくと思います。

お彼岸の今日、どんな「恩送り」ができるでしょうか。ご先祖さまにご相談されてはいかがでしょうか。