遺体 ─ 震災、津波の果てに ─ 石井 光太 著

『物乞う仏陀』で「貧困の生の悲」を直視した著者は、仙台市釜石地区で大震災に生き残った「二百名以上の」被災者と三ヵ月寝食を共にし、現場の「死の悲」の様相を伝える。
絶えず遺体に呼び掛ける民生委員千葉淳のトーンが本書の主旋律となってあまりにも生々しい。混乱の中で活動する市長・市職員、消防団員、陸上自衛隊員、海上保安部員、医師、歯科医師、住職、葬儀社員たちの息遣いが、著者の私情を抑制する。
「突如襲った」多くの無念の死、原形を留めぬ遺体、「身元不明の遺体」、苦しみもがいた姿を留める遺体。独りで死んだ幼い子、生まれて百日目に死んだ子、酒酌み交わした仲間との別れ。
「遺体」に残る人格を再認識させてくれる本書は環境再生の進む今、再読の必要があろう。

遺体 ─ 震災、津波の果てに ─
石井 光太 著
●新潮社(2011年/1,500円+税)

(初出:2013年夏 サリュ・スピリチュアルVol.7)

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