自分の死期を悟った高齢者が、余命を賭して人生の総決算を試みる。映画「あなたの旅立ち、綴ります」は一種の終活映画だが、閉じこもりがちな日本人に比べ、開放的な米国人気質との違いがくっきりと浮かび上がる。
ビジネスで名を成して何一つ不自由のない老婦人ハリエットがいる。生きているうちに自分の訃報記事を用意しようと考え、地元新聞社の訃報記事担当の若い記者アンに執筆を依頼するが、これまで自分本位で生きてきた彼女をよく言う人は誰一人いなかった。別れた夫や一人娘とも関係は途絶えたまま。理想とはほど遠い自分の人生をふりかえり、最高の訃報記事のため、ハリエットはアンとともに行動を起こすのだが…。
現代の終活といえば、「迷惑をかけたくない」と自己完結型に陥りやすいが、本作では、反対に社会に乗り出していっては、相手をどんどん巻き込んでいく。いわば人生最後の迷惑をかけながら、自分の立場やしがらみを脱ぎ去って、一人の素の人間に還っていくのである。ハリエット演じるは、御歳83歳の大女優シャーリー・マックレーン。憎々しげに、また可愛さたっぷりに演じるのだが、映画全体が彼女の幸せな生前葬のようだ。
「あなたの旅立ち」とはハリエットだけではない。ちょっと自分に自信のないアンも、人生の完成期をストレートに生きる老人から新たに生き直す活力を授かる。ハリエットは死を受け入れていく一方、アンは第2の人生をスタートさせるのである。その世代をつなぐリレーが、この映画を単なるエンディング・ストーリーに終わらせていない魅力だろう。
死を考えることは、今を生きること。しかし、一人では生ききれない。本当の終活とは、「一緒に答えを探してくれる人」に出会うことではないか。僧侶として、私もそうありたいと思う。監督マーク・ペリントン。(2017年・米国映画)