「諸法無我」。万物諸々の因縁によって生くる故、人の間に「無縁」はない。本書の行間にそんなメッセージが読み取れる。
「ホスピスや在宅介護、自殺と貧困、孤立死の現場で500人以上の方を看取り、2000人の方の葬儀を行っ」た著者も「自分の弱さを正面から見つめることが」できない時期があった。幼児より母に疎んじられ、叔父の縊死に遭い、養育者祖父母の死に涙もこぼれなかった。
自殺、うつ、多重債務、介護疲れ、離婚、病気、孤独死、孤立…。これら四苦八苦の海に漂流する多くの人々と出遭い、気づいたのが「悲しむ力」の偉大さ。被災地に出向いた著者は、天災人災に打ちひしがれる人々に接し、社会の底辺で苦しむ姿とは違うものを感じた。
そこに見たのは「人の悲しみを自分の悲しみと感じる」センスだったが…。
悲しむ力 ─ 2000人の死を見てきた僧侶の30の言葉 ─
中下 大樹 著
●朝日新聞(2011年/1,050円+税)
(初出:2011年冬 サリュ・スピリチュアルVol.4)