利他主義と宗教 稲場 圭信 著

対論冒頭、高村薫の問題作『太陽を曳く馬』の殺す殺される人間の悪、オウム真理教問題をぶつけていく。
「オウムには『空』が抜け落ちていた」と白川密成は推論する。
以下、宗派が異なる僧侶たちとの対論が展開する。生と死の意味、宗教と社会の接点、共同体と葬送儀礼の崩壊、仏教における聖と俗、大乗仏教とその源泉、阿弥陀仏の実体、死刑制度の宗教的是非そして大災害の救済論に及ぶ。
著者は大震災を「純然たる自然現象」と捉え『天罰論』は戯論として斤けるが、原発事故等には「業が関わっている」と断じる。「だからこそ」法然の「倶会一処や還相回向」の教えが「根源的な恐怖」からの「真の解放」をもたらすと言い切り、よって論理やこじつけを越えた「信仰力」による世界観をしっかり提示したいと林田康順が受ける。

利他主義と宗教
稲場 圭信 著
●弘文堂(2011年/1,700円+税)

(初出:2012年春 サリュ・スピリチュアルVol.5)

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