仏教VS倫理 末木 文美士 著

死者もまたかつて生きていた歴史の事実だ。その存在は仏と共に「他者」として私達に強く関わっている。しかし現代倫理はこの重要な歴史感覚を喪失し、すべての行為行動を「生者」の視座で捉え、解決不能な問題を非科学として無視する。近現代仏教を「葬式仏教」の枠組みで捉え、蔑視排斥する。倫理のメルトダウンはそこから始まった。「仏教の本源を考え直せば」日本独自の本覚思想は「向上の契機」を喪わしめたが、それは決して仏教の本質でもなく「倫理性の欠如」とも断定できないと言い切る。そして広島や靖国問題にも論を敷衍しながら、近年注目の「社会参加仏教」に賛同し、今こそ仏教が内在する「超・倫理」性を真摯に見直したいと提言する。

仏教VS倫理
末木 文美士 著
●ちくま新書(740円)

(初出:2010年冬 サリュ・スピリチュアルVol.1)

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