「日本の伝統社会の中には初めから生者と死者が入っている。死者はものをいわないから、その意見を取り次ぐために数々の儀礼や祭がつくられてきた」
哲学者の内山節の言葉だが、それをありありと思い起こさせてくれるのが、アニメ映画「ももへの手紙」だ。
舞台は瀬戸内海の小さな島。ケンカして和解しないまま父親が事故死した小6の少女ももは、母とともに故郷の島へと引っ越してくる。父親が「ももへ」と一言だけ書き残した手紙。いったい何を書きたかっただろう。海と山に囲まれた田舎の暮らし。穏やかな人々のふれあい。それまで居た東京とは違う時空がある。ある日、ももは蔵から目覚めた3人組の奇妙な妖怪に出会う……。
「ハートフルファンタジー」と銘打っているように、アニメならではの物語である。島の暮らしぶりはていねいに描かれるが、妖怪はどこまでも荒唐無稽で、デフォルメされている。
「そら」からやってきた妖怪たちは、落ちこぼれた元神様らしい。ももにだけ、その姿が見えるのだが、次第に妖怪がじつは亡くなった父親の視線であることに気づかされる。「見守り隊」の妖怪たちは、ももの成長を見届けてまた「そら」へと帰っていくのだ。傑作「千と千尋の神隠し」もそうだったが、宗教的な成長譚は日本アニメの独壇場といえるかもしれない。
ラストの浜辺の祭で、ももへの手紙は完成する。死者から手紙が届くのだ。元神様の3人組とのズッコケの数々は、死者の声を呼び寄せる儀礼でもあり、祭でもあったのだ。
映画のキャッチコピーは「気がつけば、私、ひとりじゃなかった。」。すぐれた死生観は、人を孤立から救う。監督沖浦啓之。
ももへの手紙
沖浦啓之 監督
●日本映画(2012年)
