〈映画評〉「はじめてのおもてなし」

 EUの優等生でありながら、絶えず極右勢力と緊張関係にあるドイツ。底辺にはナチスの暗鬱な歴史が沈澱している。なので、ドイツ映画といえばシリアスでストイックなイメージが強い。

映画「はじめてのおもてなし」は一変して軽妙なハートフル・コメディだ。難民の受け入れと家族再生の物語なのだが、ドイツ社会の今を笑いを通して炙り出す。ハリウッド的なノリとは違う、堅物ゆえのおかしさが日本人には近しい。

 話はシンプルだ。ミュンヘンの高級住宅街に暮らす、迷える熟年夫婦。ある日、妻が難民センターにナイジェリアから亡命申請中の青年の受け入れを宣言する。落ち目なのに現役に固執する外科医の夫は猛反対、三十路を超えた娘は万年自分探しで、息子はワーカホリックで幼い息子からも見放されている。難民の青年の存在は数々の騒動を引き起こすのだが、崩壊寸前だった家族は次第に絆を取り戻していく。

 欧州各地で反移民感情のうねりが起きる中、最大の受け入れ国であるドイツ国民には難民問題はどのように捉えられているのか。社会における緊張関係は容易に推測がつくが、それでも本作は笑いを生かしながら寛容と融和を伝えようとする。キリスト教の一家に、イスラムの難民青年が、「なぜ家族に敬意を払わないのか」と諭すように問いかけるのである。

 いや、綺麗事で済まそうというのではない。難民に対し悪態もつけば愛想も尽かす。排除派や擁護派のいずれも独善に過ぎないか。青年が経験したボコ・ハラムのテロの無慈悲も。そういう率直さが共感を呼んだのか、この映画、ドイツ本国における年間観客動員数第1位を記録した。

 サイモン・バーホーベン監督は「難民問題解決の正解はない」としながら、こう言っている。「しかし、この混沌とした、不確かな、落ち着きのない状況はコメディにとっては肥沃な土壌となる」。

そのしたたかさは、日本映画は真似ができない。

(2016年 ドイツ映画)