【ブック】なぜ日本人はタワーマンションが好きなのか。 『日本の醜さについて』

『日本の醜さについて』著:井上章一(幻冬舎)

この夏、ドイツとポーランドを巡る旅に出た。ヨーロッパの古い都市は日本のような超高層ビルの姿はなく、戦前の建物を補習改修しながら今も大切に使っているところが多い。ポーランドの首都ワルシャワはナチスドイツの攻撃によって大半を焼失したというが、戦後何十年にも渡って元の姿を忠実に復元した。そこでも高層ビルを建てるという発想にない。
日本人はなぜかように新築が好きなのか。なぜ超高層が好きなのか。この本は建築風土にとどまらず、民族と都市の在り方、暮らしと住まいの在り方まで踏み込んで日本の特異性について示唆してくれる。京都の街があれほど伝統と格式を維持しながら、一方で奇妙奇天烈な現代建築と平然と同居している、そのカオスぶりに驚くのだ(というか日本人は平気なんだが)。

和辻哲郎は名著「古寺巡礼」において、仏教と日本人の美意識の関連について言及した。京都はその原郷である。現代の嵐山の光景を、あそこまで俗化されるとは想像もつかなかっただろう。
むろん都市は生ものだから変容する。しかし、だからこそ、その表層としての建築や町並みは、変化に媚びずにどこかで踏みとどまることが必要ではないか。規制や保護の理屈ではない。それは歴史や伝統に対し謙虚になるということだ。
私の住むあたりも、インバウンド景気で様変わりが激しい。50メートル先には2年先、33階建のタワーマンションが建つ。450年続く、わが寺町の伽藍の街並みを眺めながら、私はこの稀有な美をなんとかして守らなくてはならないと思うのだ。

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