〈映画評〉映画「君はひとりじゃない」

映画「君はひとりじゃない」は、原題「BODY」の通り、「身体」を巡る異色作だ。降霊や超常現象などオカルト的な題材を扱いながら、どこか暖かく身近に感じられるのは、登場人物の身体について丁寧に描かれているからだろう。ポーランドの俊英マウゴシュカ・シュモフスカ監督作品。
 
妻(母)の病死から立ち直れないでいる父娘が主人公である。深い喪失感に苛まれ、娘は摂食障害や自傷行為に耽り、数々の殺人現場に立ち会う検察官の父は死に対する感覚が麻痺してしまう。娘は母を死に追いやったのは父だと罵り、両者の関係は危うくもあり険悪だ。日に日に痩せ衰える娘を、父は病院の女性セラピストに託すのだが、彼女は同時に死者と交信する霊媒師でもあった。以来、父娘の家では不思議な現象が次々と起きて、やがて三人は亡き妻の交霊会を始めることになる……。
 
物語だけ聞けば、今様のスピリチュアル映画を連想するが、随所に暗めのユーモアを散りばめながら、三者三様の身体感覚が取り上げられる。
 
死に対しすっかり不感症になってしまった父は、感情を失い、暴食に耽る。娘は、そんな肥満体の父を憎悪しながら、自分の心身を傷つけていく。一方豊満な中年女性であるセラピストもかつて幼い息子を喪った体験があり、今はセクシャリティを捨て去って、精神世界に奉仕しているように見える。
 
誰もが喪失感に苛まれ、他者とのわかりがたさを抱えているのだが、それらは身体の不毛となってわれわれを追い込んでいく。西洋は、いまも心身二元論を克服できないでいるのだろうか。セラピストと娘が病院で行う自己回復のためのリハビリは見物だ。
 
映画はしばしば上空から、彼らを見守るようなカットが多用される。現代人の身体性の行き詰まりを描きながら、しかし、それを救うのが、ここにはいない死んだ妻であるという視点が面白い。
 
父娘の関係が氷解するラストシーンは、拍子抜けするほど明るく暖かい。ささやかな親子の愛と再生の物語だが、ポピュリズムの風吹き荒れる欧州において、こういう映画が支持されるのかもしれない。ベルリン映画祭銀熊賞受賞作品。

(2015年 ポーランド映画)