〈映画評〉アジア発のスピリチュアルな世界観。「光りの墓」

グローバル化がますます進むハリウッド映画に対し、その地域独自のローカルな風土やドメスティックな人間関係を描く異能がアジア映画から生まれている。映画「ブンミおじさんの森」でカンヌのパラムドールを受賞したアピチャッポン・ウィーラセタクンはその代表的な存在だ。現代アーティストでもある監督の最新作「光りの墓」は、独自の映画技法が駆使されており、容易には読み解けない。イサーンというタイの東北部に根ざしたスピリチュアルな世界観だ。

ある仮設の軍事病院が舞台。病院には「眠り病」にかかった兵士たちが昏々と眠っている。身寄りのない兵士の世話をするボランティアの中年女性と、人の前世や過去を見ることのできる若い女性が出会う。そこにふたりの若い女性が現れ、「病院の場所には、大昔の王様たちの墓があり、彼らの魂が兵士の生気を吸い取って今も闘いを続けている」という。どうやら女たちは、その時の王女の化身であるらしい……。

構成といい展開といい、映画の定石が覆される。現在と過去、生者と死者、前世と来世が重なりながら、これまで見たこともない映画表現のあわいが顔を出す。若い女性は眠る兵士の記憶を語り、ふたりの女は遥か王朝時代の栄華を語るというように、登場人物の人称さえ確定されないのだが、表向きの物語とは別にもうひとつの物語が表象化されているのだろう。「フィクションとノンフィクションのあいだを行き来することにこだわり」(監督)ながら、新しい映画のコスモスを描こうとしている。

それにしても、監督の生地であるイサーンの何と美しいことか。空、水、木々にも精霊が宿るというこの場所は、一方で70年代から続く政治闘争の拠点でもある。舞台となる軍事病院は、元学校の校舎に仮設されているように、本作は、ファンタジーの纏をつけながら、現在のタイの軍事政権に対する静かな批判にもなっている。現実社会に対峙するスピリチュアルな問題提起とでもいうべきか。

(2015 タイ・イギリス、フランス、ドイツ、マレーシア合作)

公式サイト「光りの墓」