【ブック】観光と仏像ブーム。「仏像と日本人」

「仏像と日本人」碧海寿広:著

近代初期の廃仏毀釈の弾圧からいかに仏像が生き残り、そして現代までいかに美の象徴として定着していくか、もう一つの仏教史として読むと面白い。岡倉天心、和辻哲郎からみうらじゅんまで、仏像を通して日本人の感性の変化を辿る。
教養としての仏像を発見した和辻と、それを批判して死と祈りを復活させた亀井勝一郎の対位が興味深かった。亀井は戦中の思想として仏像を伝統回帰させながら、しかし敗戦後、即物主義に転向している。仏像写真は一気に仏像ブームを押し拡げるが、土門拳と入江泰吉がこうも対照的とは知らなかった。
観光と宗教性という視点から、本書の中でこう述べている。
「数々に古寺で仏像を見つめる観光客の経験は、その経験の多元性にこそ可能性が認められる」「文化財、美術品として評価された仏像は、その仏像を信仰する者たちがつくる集団の垣根を越えて、信者と非信者=観光客を同じ空間に共存させ」「観光の時代には観光の時代の新たな宗教性がありえる」
美術や芸能、あるいは應典院のアートも含み込んで、重要な指摘だと思う。

http://www.chuko.co.jp/shinsho/2018/07/102499.html