宿坊はお寺を救うか。もうひとつの寺業再興。

(2017年01月31日 更新)

ハウステンボスに行って感じる違和感は「もどき」の世界である。それによって擬似的な「国際体験」をするのだが、だから偽物だと非難するつもりはない。所詮、過去を巡る「旅行」とはそういうものであるのかもしれない。

来年3月に、下寺町に「宿坊」が出現する。寺の境内に新設した宿坊に、積極的にインバウンドを呼び込み、日本文化を体験してもらう。事業者はベンチャー企業である和空プロジェクト、施行を積水ハウス、販売はJTBも手がけるとか。高野山や善光寺の宿坊とは似て非なる「宿坊ブランド」の誕生である。

単なる観光業ではない。長く宿坊文化を紹介してきてくれた宿坊研究会の堀内克彦さんは、「これから日本で宿坊が活躍する領域」として観光と医療・教育の2点を挙げている。「政教分離は新しいステージに入って、防災・観光・子育てで、行政と寺社の密な連携が始まる」というのである。まさに「宗教の公共性」を事業の根拠としている。

最初、耳にした時、奇態なことと驚いたが、考えてみれば全国の伽藍の少なくない数が、「デッドストック」状態である。寺院消滅の時代、布施収入に頼らない自立経営の道として、宿坊経営があってもおかしくない。同じにしては失礼だが、善光寺門前の宿坊は、檀家もいないし、葬式だってしない。

和空プロジェクトからすれば、お寺の土地を安く借り上げて、プレハブの「宿坊」をローコストで建築する。インバウンドの趣向も「体験型」に変ってきたところで、日本文化の宝庫たる仏教メニュー(事業者はアクティビティと呼んでいた)を提供する。座禅、護摩供、写経、写仏、茶道、華道等々、もちろん食事は精進料理だ。

基本は、施設運営(企画・集客・メンテナンス)を事業者が担当して、アクティビティをお寺さんにという棲み分けなんだろう。寺院にしても、それがなければなかなか乗り出しにくいのも事実だ。

事業者は写経のアクティビティを1年やれば、1200万円の収益が上がると皮算用をしていたが、私の懸念したのは、それよりも、おもてなしやコミュニケーションといった僧侶の対応能力である。浄土宗の僧侶に護摩供はできないし、英語や中国語も操れない。まずは参拝客でもない外国人に、きちんと「接客」できるのか、心もとない。僧侶は、社会的に訓練されていないと考えた方がいい。

どうやらそういった利用者と寺院側の「翻訳機能」を堀内さんが担当するようだが、仔細はわからない。いっそ外国語でも対応する優秀な僧侶スタッフを育成・派遣したらいいんじゃないか、とも思う。
 
めざとい僧侶もいるだろう。ビジネスセンスを発揮する人もいておかしくない。しかし、宿坊は、旅館やホテルであってはならない。
 
堀内さんはこう述べている。
「宿坊を観光資源、寺社活性化の手段として考えると本質を見失う。宿坊を運営する側は、宗教者としての素養をこれまで以上に求められる」

宿坊が新たな「寺業再興」となるかは、やはり人にかかっている。

【和空プロジェクトのウエブサイト】http://waqoo-pj.jp/