〈映画評〉神はダメ親父だった? 映画「神様メール」

(2016年07月18日 更新)

宗教をチャカした映画はいくらでもある。権威や威光を笑うのは、映画の特権ともいえるが、本作「神様メール」は、神様を相当におちょくるシュールなコメディだ。しかもその神様は、ベルギー在住の「嫌な奴」ときている。

奇想天外なストーリーである。神様は妻と息子JC(救世主!)と、娘エアと一緒にブリュッセルのアパートで暮らし、パソコンでいたずらに世界を支配している。エアは人間を弄ぶ横暴な神様が大嫌い。人間に運命に縛られることなく生きてほしいと願い、神様のパソコンから人々に余命を知らせるメールを送る。エアは大パニックに陥った世界を救う旅に出るが、彼女のもたらす奇跡は思いがけず人々の悩みを解決していく…。

神が本当にいるのなら、なぜ世界はかくも矛盾を抱えているのか、という問いに、それは神がダメ親父だからと答えてみせたのがぶっ飛んでいる。父、息子の男性原理で創造された聖書の世界観を、娘と母親(掃除ばかりしている女神)で作り直そうというあたりが今風か。「女性が活躍すれば世界は平和になる…この映画は、男性によるフェミニズム映画」とジャン・バン・ドルマル監督。

娘エマがすばらしくキュートだ。鳥と会話したり、水上を歩いたり、人々の内なる音楽を聴くなどの、彼女のもたらすささやかな奇跡が、「神の思し召し」に逆らって、あるがままに生きようとする人々をつないでいく。大女優カトリーヌ・ドヌーヴが、ゴリラと恋に陥る富豪夫人を演じているのもご愛嬌だ。

映画の原題は「新・新約聖書」。ヨーロッパ映画らしいエスプリや諧謔に冨んだ現代の寓話として成功している。敬虔なカトリック教徒がどう反応するか知らないが、その大らかさは宗教への寛容性と無縁ではないだろう。ハリウッドには絶対真似のできない、愛すべき佳作である。

(2015年・ベルギー・フランス・ルクセンブルグ合作)