〈映画評〉106歳の監督が描く幻想譚。「アンジェリカの微笑み」

「アンジェリカの微笑み」は、世界最高齢監督で、昨年106歳で亡くなったポルトガルの巨匠マノエル・ド・オリヴェイラ監督の作品だ。自身の死期を悟っていたのか、われわれを甘美な死へと誘う異色のファンタジーになっている。

物語は典型的な幻想譚である。ドウロ河流域の小さな町。ある日、カメラが趣味の青年イザクは、ひょんなことから富豪の屋敷に呼ばれ、亡くなった娘アンジェリカの最期の写真を撮ることになる。ところが、イザクがファインダーを覗いた瞬間、アンジェリカの瞼が開き、彼に向かって微笑む。以来、アンジェリカに心を奪われたイザク。周囲は彼の奇行を危ぶむが、彼の前にはしばしば死んだはずのアンジェリカが姿を現わすようになる……。

怪談のようではあるが、映画は暖かい。恐怖感の欠片もなく、どこまでも愛しい。それは監督が撮影時すでに101歳という境地にいたからだろうか。死の気配が画面の隅々にあふれている。

そもそも、映画は120年前に発明された時から死者の棲家であった。死んだ人が蘇り、永遠の存在としてそこに在りつづける。本作では「死者の再生」という映画の原初的驚異が、まさにカメラのファインダーを通して再現されるのだが、そのまなざしは畏れや穢れを超えて、どこまでも死者との深い共感にあふれている。青年がアンジェリカの亡霊と宙を舞うシーンは、まるでサイレント映画のようなつくりになっているのだが、そのレトロ感がかえって虚構を際立たせ、死者のロマンティシズムを美しく奏でる。

CGを駆使したハリウッド製ファンタジー大作に比して、隠れ家から見つかった埃まみれの宝石箱のような愛しさを感じる。これは、1931年の監督デビュー以来、80年以上映画人でありつづけた巨匠の、映画へのオマージュであるのだろう。

(2010年・ポルトガル・スペイン・フランス・ブラジル合作)

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大蓮寺住職、應典院代表

秋田 光彦

1955年大阪市生まれ。

明治大学文学部演劇学科卒業後、東京の情報誌「ぴあ」に入社し、主に映画祭の企画・宣伝を担当。退社後、映画制作会社を設立、1997年に劇場型寺院應典院を再建。

以後10数年間にわたって、市民、コミュニティ、地域資源のあり方を具体的に提案し、実践し、市民活動や若者の芸術活動を支援してきた。また、人生の末期を支援するエンディングサポートをNPOと協働して取り組むなど、「協働」と「対話」の新しい地域教育にかかわる。パドマ幼稚園園長、総合幼児教育研究会代表理事、相愛大学客員教授など兼務。まちづくりからコミュニティシネマまで活動範囲は幅広い。